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トンカツ


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トンカツ [2021/04/06 18:09]
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— (現在)
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-====== トンカツ ====== 
-ある青年が、K県に行った時のこと。 
-空腹になったので、一軒のトンカツ屋に入った。 
-夫婦者でやっているらしい、小さく古びた店だった。 
-奥の座敷は住まいになっているようで、子供がテレビを見ている姿がチラリと見える。 
  
-夫も妻も、無愛想で心持顔色が悪い。 
-他に客はいなかった。 
-しかしここのトンカツ、食ってみるとものすごく旨い。 
-あっという間平らげ、青年は満足した。 
-会計を済ませ、帰り際。 
-店主が『来年も、またどうぞ』と。 
- 
-変わった挨拶もあるものだ、と青年は思ったが、トンカツは本当に旨かったので、また機会があったら是非立ち寄ろう、と思い、店を後にした。 
-それから一年… 
- 
-再びK県に赴いた青年は、あのトンカツ屋に行ってみることにした。 
-しかし、探せども探せども店は見つからない。 
-おかしい… 
-住所は合ってるし、近隣の風景はそのままだし。 
-まさかこの一年で潰れた…とか? 
-いやあんなに旨い店なのに。 
-仕方がないので、住民に聞くことにした。 
- 
-するとあの老人が、「ああ、あの店ね。あそこは11年前に火事で全焼してね。家族3人だったけど、皆焼け死んでしまって…」そんな…青年があの店に入ったのは去年のことだ。 
- 
-戸惑う青年をよそに、老人は続けた。 
-「毎年、火事で店が全焼した日、つまり家族の命日にだけ、その店が開店する…って話がある。入った客も何人かいるようだが…。あんた、去年入ったの?」 
- 
-『来年も、またどうぞ』帰り際の店主のあの変わった挨拶。 
-あれはつまり、来年の命日にもまた店に来いと、そういうことだったのだろうか…。 
-恐慌をきたしながらも青年は、家族の命日だけは確認した。 
-案の定、去年青年が店に入った、その日だった…。 
-……その話を青年から聞いた友人は、「そんなバカなことあるかよ。お前ホントにトンカツ食ったの?」と。青年は答えた。 
-「本当に食った!あんな旨いトンカツ初めてだったし、それに子供が奥の部屋で見てたテレビ番組、ルパン三世の曲だってことも憶えてる」 
-しかし青年は、しばらく考え込んでから呟いた。 
-「そう言えば、子供の首が無かった気がする…」 


トンカツ.1617700172.txt.gz · 最終更新: 2021/04/06 18:09 by 127.0.0.1