このページの2つのバージョン間の差分を表示します。
次のリビジョン | 前のリビジョン | ||
トンカツ [2021/04/06 18:09] 127.0.0.1 外部編集 |
— (現在) | ||
---|---|---|---|
行 1: | 行 1: | ||
- | ====== トンカツ ====== | ||
- | ある青年が、K県に行った時のこと。 | ||
- | 空腹になったので、一軒のトンカツ屋に入った。 | ||
- | 夫婦者でやっているらしい、小さく古びた店だった。 | ||
- | 奥の座敷は住まいになっているようで、子供がテレビを見ている姿がチラリと見える。 | ||
- | 夫も妻も、無愛想で心持顔色が悪い。 | ||
- | 他に客はいなかった。 | ||
- | しかしここのトンカツ、食ってみるとものすごく旨い。 | ||
- | あっという間平らげ、青年は満足した。 | ||
- | 会計を済ませ、帰り際。 | ||
- | 店主が『来年も、またどうぞ』と。 | ||
- | |||
- | 変わった挨拶もあるものだ、と青年は思ったが、トンカツは本当に旨かったので、また機会があったら是非立ち寄ろう、と思い、店を後にした。 | ||
- | それから一年… | ||
- | |||
- | 再びK県に赴いた青年は、あのトンカツ屋に行ってみることにした。 | ||
- | しかし、探せども探せども店は見つからない。 | ||
- | おかしい… | ||
- | 住所は合ってるし、近隣の風景はそのままだし。 | ||
- | まさかこの一年で潰れた…とか? | ||
- | いやあんなに旨い店なのに。 | ||
- | 仕方がないので、住民に聞くことにした。 | ||
- | |||
- | するとあの老人が、「ああ、あの店ね。あそこは11年前に火事で全焼してね。家族3人だったけど、皆焼け死んでしまって…」そんな…青年があの店に入ったのは去年のことだ。 | ||
- | |||
- | 戸惑う青年をよそに、老人は続けた。 | ||
- | 「毎年、火事で店が全焼した日、つまり家族の命日にだけ、その店が開店する…って話がある。入った客も何人かいるようだが…。あんた、去年入ったの?」 | ||
- | |||
- | 『来年も、またどうぞ』帰り際の店主のあの変わった挨拶。 | ||
- | あれはつまり、来年の命日にもまた店に来いと、そういうことだったのだろうか…。 | ||
- | 恐慌をきたしながらも青年は、家族の命日だけは確認した。 | ||
- | 案の定、去年青年が店に入った、その日だった…。 | ||
- | ……その話を青年から聞いた友人は、「そんなバカなことあるかよ。お前ホントにトンカツ食ったの?」と。青年は答えた。 | ||
- | 「本当に食った!あんな旨いトンカツ初めてだったし、それに子供が奥の部屋で見てたテレビ番組、ルパン三世の曲だってことも憶えてる」 | ||
- | しかし青年は、しばらく考え込んでから呟いた。 | ||
- | 「そう言えば、子供の首が無かった気がする…」 |